施設養護よりも里親による養育がより家庭的な養育環境であることから、親とともに暮らせないこどもは可能な限り里親による養育とし、それが難しいこどもについては施設での養育とするのが、こどもの最善の利益に沿うものと考えられます。
しかし、日本の社会的養護の現状は、前述の通り、施設の割合が非常に大きくなっており、里親委託率は、他の先進国と比較して低い水準に留まっています。
里親委託率の国際比較(2010年)
厚生労働省「社会的養育の推進に向けて」(平成31年4月)
また、0歳〜2歳未満の新生児のうち、里親に委託される割合はわずかに16%であり、多くは乳児院という施設に預けられています。
こどもの最善の利益のためには、日本でも、里親家庭での養育を拡充することが重要です。
しかし、だからといって、施設をなくし、里親家庭での養育のみをこどもに提供するのも、こどもの最善の利益にはつながりません。
一般化はできませんが、児童相談所がこどもを里親に預けるか、施設に預けるかの選択に直面したとき、被虐待児で複雑な状況にあるこどもであるほど施設に預けられることが多いと考えられます。
それは、被虐待児は(本人の責任ではないが)トラブルを起こしやすく、里親家庭ではこどもに何かがあったときに対処するのが難しい一方で、施設であれば専門性の高い職員もいるため対応できる可能性が高いだろうという考えが背景にあります。
里親家庭で引き受けるこどもとのマッチングがうまくいかないと、場合によっては里親家庭そのものが壊れてしまうことすらあります。
こどもの養育にとって、安心・安定した人間関係の元、特定の人と愛着関係を築くことは非常に重要であることから、里親家庭でのマッチングがうまくいかなかった時の悪影響は重篤です。
しかし、施設であれば、児童指導員との相性が悪くても生活のユニットを変えるなどして対応することもでき、専門の心理療法士もついています。
同指針の12条および22条では、社会的養護の元に暮らすこどもにも、安定した家庭を保障すること、養育者に対する安全かつ継続的な愛着心というこどもの基本的なニーズを満たすことの重要性が強調されています。
特に幼いこども、中でも3歳未満のこどもに対しては、家庭を基本とした環境が提供されるべきという専門家の有力な意見を引用しています。
施設別虐待経験者数比率
出典:厚生労働省「社会的養育の推進に向けて」(平成31年4月)
国連の「児童の代替的養護に関する指針」54条には「各国は緊急時、短期間及び長期間の養護のため、本指針の一般原則に沿った 多種多様な代替的養護の選択肢が利用できるよう保障すべきである。」とあります。
社会的養護に暮らすこどもの最善の利益のためには、より家庭に近い養育環境が重要であり、そのためには里親委託率を高める一方、こどもの多様なニーズに対応するために、施設での養護も一定程度残す必要があります。
平成23年の「社会的養護の課題と将来像」において、施設養護においてもできる限り家庭的な養育環境を実現することが必要とされたことを受け、各都道府県では各施設が定める「家庭的養護推進計画」をふまえた「都道府県推進計画」を策定し、27年度から実行されることとなりました。
また、平成29年には「新しい社会的養育ビジョン」が取りまとめられ、施設小規模化の推進や、里親委託率の向上を目指す具体的な取り組みが盛り込まれることになり、家庭養育を優先する体制の構築が進んでいます。
ただし、上記の通り、里親委託率が低迷している現状は否定できず、今後もこうした社会課題に取り組む必要性は依然として残ったままとなっています。