私立・文系の4年制大学に通う間の学費・生活費を賄うためには、大学進学後もアルバイトを行い、ローンの奨学金を借りた上で、更に、高校生の内に、100万円を優に超す金額を貯金しておくことが必要です。
高校生の内から、自分の状況を客観的に理解した上で、将来を見通し、自分を律して積立を始めなければならないのは、日本の一般的な家庭に育った高校生にとっても、とてもハードルが高いことですが、これが、児童養護施設を出て、進学を希望する子ども達に課されるハードルです。
進学には、物理的なハードルに留まらず、心理的なハードルも経済的なハードルに加え、児童養護施設の多くの子ども達にとって、努力をすることには人一倍の困難が伴うという現実があります。なぜならば、児童養護施設にやってくる子ども達の約半分が虐待を受けた経験を持っており、幼い頃に周囲の環境から受けてしまった心の傷は、努力すること・頑張ることを難しくさせるからです。人生で最も愛情を受けるべき時期に、その真逆の経験をしてしまった子ども達は、「頑張っていいことがあるの? これまではいいことがなかったのに」という考えを持ってしまう可能性が高いのです。このように、これまで述べて来た進学の経済的・心理的なハードルの影響もあり、全国平均と児童養護施設退所者の進学率には大きなギャップが空いています。
しかし、児童養護施設の子ども達の約3分の1は、高校卒業後の進学を希望しています。大学や専門学校への進学を希望する児童養護施設の子ども達は少なくありません。児童養護施設を対処した子ども達を支援するNPO法人 Bridge for Smileが2014年に全国の児童養護施設の高校生約6,000人に対してアンケート調査を行い、173施設1,079名の高校生から回答を得た結果によると、高校一年生の進学希望は4割です。
この割合は、具体的な進路を選択する時期が迫る高校3年生では、進学希望者が3割まで減少する一方、就職を希望者が増加します。本アンケートの実施時期が6月〜9月だったこともあり、10月以降になると、更に希望者が減少し、実際の進学者の統計である20%弱に落ち着いてしまうことが予想されます。又、同アンケートを分析しているBrdige for Smileのレポートには、「希望職種のある高校生の希望進路と、希望職種のない高校生の希望進路を比較した際に、希望職種のない高校生の進学の割合が低くなっています。つまり、施設に入所している高校生にとって、「将来の具体的な夢がないからとりあえず進学」という考え方はあまりないといえます。」と記載されています。進学に際してのハードルの高さから、高校3年生の子どもが、将来の夢がまだ定まっていないからという理由で、進学を断念している姿がアンケートの結果から見えてくる思いがします。