社会的養護を必要とする児童の要保護理由として最も多いのは、実親による虐待です。虐待経験を持つ子どもは精神的にさまざまな症状や課題を抱えており、その養育には高い専門性が求められます。しかし、現状では特別なケアを要する子どもを養育する専門里親に委託されている児童は社会的養護下にある児童全体の4%程度にすぎず、里親委託児には虐待経験のある子どもが施設と比べて少なくなっています。課題の程度によっては里親への負担が過剰になる場合や、家庭でのケアだけでは不十分な場合もあり、医療的ケアを含めた支援を行う情緒障害児短期治療施設や、被虐待児の養育経験に蓄積のある児童養護施設への委託が望ましいケースも多々あります。
専門性の高い環境ほど被虐待児の比率が高い
出典:厚生労働省 「社会的養護の現状について(平成28年4月)」
全国児童相談所長会による調査では、里親の委託解除理由のうち「里親との関係不調による解除」は約24%を占めており、高年齢児ほどその割合が高いことが示されています。里子の対応が困難な事由として、乳幼児の里子については「特になし」という回答が多い一方で、7~12歳では「反撥・反抗」「発達障害」「暴力・破壊」、13~15歳では「反撥・反抗」「里親宅への不適応」「学校への不適応・不登校」「生活の乱れ」「学習意欲が乏しい」「夜遊び・深夜徘徊・無断外泊」などの割合が高くなっており、年齢が上がるほど里親との良好な関係維持が難しくなることが見て取れます。
以上のような課題を踏まえると、里親委託は目指すべき方向ではあるものの、迅速に移行を推進できる状況にはないと言えます。また、被虐待児や高年齢児に対する養育の難しさを考慮すると、専門性のある良質なケアを提供できる施設養護には一定の役割があり、それは今後も重要なものでありつづけるでしょう。子ども一人ひとりの状況に応じて最適な環境を提供できるよう、施設養護・里親委託の両者をよりよいものにしていくことが必要です。