取り組む課題

里親養護

 

里親とは

   
子どもの権利条約に謳われるとおり、すべての子どもが「家庭環境の下で幸福、愛情及び理解のある雰囲気の中で成長すべき」という前提において、家庭のなかで特定の大人との愛着関係に基づいた養育を行う里親制度は社会的養護の中で重要な位置づけを占めています。2000年代から制度の見直しが進み、2011年に厚生労働省が制定した里親委託ガイドラインにおいて「家族を基本とした家庭は、子どもの成長、福祉及び保護にとって自然な環境である」として社会的養護では里親委託を優先して検討すべきという原則が明示されました。

現在、里親は以下の4つのタイプに分類されています。​
 
 
 
養育里親:要保護児童を一定期間養育する里親。事前研修と5年ごとの更新研修が義務付けられている。養育期間には制限はなく、原則として18歳に達するまで、都道府県知事が必要と認める場合には20歳に達する日まで継続可能で、一家庭で同時に4名まで養育することができる。

専門里親:養育里親のうち、虐待や非行、障害などにより特別なケアを要する児童を養育する里親。3年以上の養育里親経験を有していることなどが条件で、専門里親研修と2年ごとの更新研修が義務付けられている。養育期間は原則2年以内、養育児童は2名まで。

養子縁組里親:養子縁組を前提とした里親。

親族里親:3親等以内の親族が養親となる里親。
  
  


里親には里親手当や養育費が支給されるほか、一時的な休息として施設や他の里親に子どもを預けるレスパイト・ケアと呼ばれる制度も用意されています。

また、里親に類似した制度として、2009年に創設された小規模住居型児童養育事業(ファミリーホーム)があります。ファミリーホームでは里親同様に養育者の住居において、児童5-6人の養育を行います。​

社会的養護下にある児童全体のうち里親およびファミリーホームの委託児童が占める割合(里親等委託率)はここ10数年で2倍以上に増加し、2013年度末には委託率15.6%となっていますが、これは国際的に見るときわめて低く、都道府県が策定する推進計画では平成41年(2029年)までに里親等委託率を全体の3分の1まで引き上げることが目標とされています 。

 
里親等委託率
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出典:福祉行政報告例及び家庭福祉課調べ(各年度末現在)
  
 

少ない里親家庭

  
  
一時保護所に入った子どものその後(2012年)
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出典:「一時保護所の概要把握と入所児童の実態調査 (和田一郎ほか)」
里親委託率の国際比較(2010年)
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出典:関原久代ほか、『家庭外児童数及び里親委託率の国際比較』
  

家庭環境において特定の大人と安定した愛着関係を築くことができるという点で、里親委託には大きな利点があります。しかし、現状はその利点が最大限に発揮される運用状態になく、多くの課題が残されています。さらに、社会的養護を必要とする子どもの背景を踏まえると、施設から里親への全面的な移行が必ずしも最適な選択肢とは言えません。
  
  
 

里親の確保

  
  
第一の課題は、里親の不足です。2009年から2014年までの推移を見ると、登録里親数は増加傾向にあるものの、実際に委託を受け入れている里親数はほぼ横ばいを続けています。後述するマッチングの問題もあり、さまざまな事情を抱える子どもたちそれぞれに合った里親を見つけるためには、里親数はまだまだ不足しています。

これには多くの要因がありますが、そのひとつは里親制度に対する認知度の低さです。インターネット上では「里親」という言葉が「ペットの里親」という文脈で使われていることが圧倒的に多いという調査もあり、里親と養子縁組とが混同されるなど、里親制度が社会的養護の一形態として広く、また正しく認識されているとは言いがたい状況です。

また、里親制度の運用は都道府県および政令指定都市の自治体に任されていますが、自治体によって里親委託の優先度には大きな差があります。それに応じて各自治体における里親の認知度や、研修や認定などの制度面でもばらつきが見られています。

里親委託の推移(福祉行政報告例より)
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里親等委託率
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出典:平成26年厚生労働省『社会的養護の現況について』(データは平成24年度末のもの)
  
 

親権の問題

  
  
全国の児童相談所を対象とした2011年の全国児童相談所長会の調査(「児童相談所における里親委託及び遺棄児童に関する調査」 )によると、里親委託が進まない理由として最も多くあげられるのが「実親・親権者が里親養育を望まない・同意しない」ことです。里親委託には原則として実親の同意が必要となります。しかし、養子縁組のイメージが強いためか、実際には養育里親は養子縁組を前提としないにもかかわらず、施設入所には同意しても里親委託には同意しないという実親は多く、また措置を決定する児童相談所としても実親の説得に時間と労力をかけるだけの余裕がないのが実情です。

実親の同意が求められる背景には、日本では諸外国と比してとりわけ親権が強い傾向にあるという問題があります。日本の民法は親権者に広範な権限を与えており、公的介入の必要性と手段が定められていません。虐待のような親権濫用にあたっては、親権喪失という仕組みはあるものの、親権を完全に剥奪するのはハードルが高く、実際はほぼ機能していません。2012年になってようやく親権を一時的に停止できる制度が定められましたが、制度開始2年後の2014年に親権が一時停止された事例はわずか17件に過ぎませんでした。

里親委託が進まない理由
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出典:全国児童相談所長会「児童相談所における里親委託及び遺棄児童に関する調査」 報告書
  
 

マッチングとサポート

  
  
もうひとつの課題は、自治体のリソース不足のために十分な制度運用ができていないことです。子どもが長期間にわたり愛着を築いていくためには、子どもの個性や生育歴を踏まえて相性の合った里親と慎重にマッチングする必要があります。しかし、マッチングを行う児童福祉司は、増加を続ける児童虐待にともなう大量の業務に追われ、ていねいなアセスメントに基づいたマッチングに十分な時間を割ける状況にないのが実状です。また、マッチングの過程では担当の児童福祉司以外の関与が少なく、適切なマッチングができているかどうかを担保するしくみがないことも問題です。

上述の調査では児童相談所の26%が「里親委託の方が望ましいと考えつつも、委託後のサポートが十分にできない現状により、児童相談所の職員が消極的になる」、23%が「里親への支援体制が不十分である」ことを里親委託が進まない理由にあげています。また、厚生労働省の資料によれば、自治体からは「里親を支援するための体制の整備が十分でない」「未委託里親の状況や里親委託を検討できる児童の情報など、県内全児相での情報共有が必要」「職員の意識の問題として、失敗を恐れると委託に消極的になり、無難な施設を選択する」といった課題が指摘されています。

さらに、委託開始後のサポートも十分に提供されているとは言えません。児童相談所の調査では、里親家庭への支援の課題として「児童相談所から遠く支援に限界がある」「里親の悩みへの対応が不十分」「訪問支援が不十分」などがあげられています。里親委託ガイドラインの制定以降、専任の里親担当者や里親委託等推進員、里親支援専門相談員などの設置によってアフターケアの強化が図られているものの、その運用はまだ途上にあり、問題が発見されないまま里親と子どもに多大なストレスがかかった状態が放置されるケースも後を絶ちません。

里親が直面している課題


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被虐待児・高年齢児の養育

  
  
社会的養護を必要とする児童の要保護理由として最も多いのは、実親による虐待です。虐待経験を持つ子どもは精神的にさまざまな症状や課題を抱えており、その養育には高い専門性が求められます。しかし、現状では特別なケアを要する子どもを養育する専門里親に委託されている児童は社会的養護下にある児童全体の4%程度にすぎず、里親委託児には虐待経験のある子どもが施設と比べて少なくなっています。課題の程度によっては里親への負担が過剰になる場合や、家庭でのケアだけでは不十分な場合もあり、医療的ケアを含めた支援を行う情緒障害児短期治療施設や、被虐待児の養育経験に蓄積のある児童養護施設への委託が望ましいケースも多々あります。

専門性の高い環境ほど被虐待児の比率が高い


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出典:厚生労働省 「社会的養護の現状について(平成28年4月)」

全国児童相談所長会による調査では、里親の委託解除理由のうち「里親との関係不調による解除」は約24%を占めており、高年齢児ほどその割合が高いことが示されています。里子の対応が困難な事由として、乳幼児の里子については「特になし」という回答が多い一方で、7~12歳では「反撥・反抗」「発達障害」「暴力・破壊」、13~15歳では「反撥・反抗」「里親宅への不適応」「学校への不適応・不登校」「生活の乱れ」「学習意欲が乏しい」「夜遊び・深夜徘徊・無断外泊」などの割合が高くなっており、年齢が上がるほど里親との良好な関係維持が難しくなることが見て取れます。

以上のような課題を踏まえると、里親委託は目指すべき方向ではあるものの、迅速に移行を推進できる状況にはないと言えます。また、被虐待児や高年齢児に対する養育の難しさを考慮すると、専門性のある良質なケアを提供できる施設養護には一定の役割があり、それは今後も重要なものでありつづけるでしょう。子ども一人ひとりの状況に応じて最適な環境を提供できるよう、施設養護・里親委託の両者をよりよいものにしていくことが必要です。